圧縮記帳って何?会計処理や適用できるケースを紹介します
圧縮記帳の会計処理はルールを決めておこう
圧縮記帳は一定の資産を取得した場合に、損金計上して課税所得を抑える手続きをいいます。
圧縮記帳を導入することで、一時的に課税負担が増大して資金繰りが悪化することを防ぐ効果があります。
圧縮記帳を適用するかどうかは企業の任意で、圧縮記帳を適用する場合には、特殊な会計処理をしなければいけません。
どのような会計処理が必要なのか、どのくらいの効果があるのかを把握した上で、適用するかどうかを検討してください。
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この記事の目次
圧縮記帳とは?知っておきたい基礎知識まとめ
税負担に悩む企業はたくさんあります。
また、保険金や助成金のようなお金を受け取った時に一時的に負担が増えてしまうことも、企業にとっては大きな負担です。
税負担に悩む事業者に知ってほしいのが、圧縮記帳です。
以下に、圧縮記帳についてわかりやすく説明するとともに、圧縮記帳のメリットとデメリットを紹介します。
圧縮記帳にはその事業年度の税負担を軽減する効果がある
圧縮記帳とは、一定の資産を取得した時に、課税ではなく圧縮損を計上することで課税所得を相殺する手続きです。
この時の一定の資産は、政策的に一定の要件を満たすものに限られます。
圧縮記帳を適用して圧縮損を計上すると、減価償却費を減少させる効果があり、減価償却が終わるまでの期間で見た時の課税所得に変化はありません。
つまり、課税の繰延べをする会計処理で、税金を減らすのではなく平準化するために行う処理を指します。
圧縮記帳を使うメリット
圧縮記帳を使うメリットは、資産を取得した年の税負担を軽減できることです。
その年だけに大きな収益金があると、単独の年度での税負担だけが大きくなります。
急にその年の税負担が大きくなることで、事業に影響を受ける企業もあるかもしれません。
しかし、圧縮記帳を行えば、収益金に課せられる税金を単年度で負担することはなく、資金繰りへの負担も減らせます。
例えば、大きな金額の不動産を売却した時には、多額の譲渡益が出てしまうことがあります。
そういった場合には、特定資産の買い替えをして圧縮記帳をすれば、その年にかかる大きな税負担を軽減することが可能です。
圧縮記帳を使うデメリット
圧縮記帳には適用した年の税負担を減らす効果があるものの、翌年以降の税負担は大きくなってしまう点に注意が必要です。
圧縮記帳をされた部分にかかる税金はなくなったわけではありません。
翌年以降の課税の対象となって、複数年に分けて支払います。
会社の状況によっては、取得年度で一括して納税しても資金繰りに余裕があるかもしれません。
また、来年度以降の負担を増やさないために一括で納税する選択肢もあります。
圧縮記帳を適用するかしないかはその企業の自由です。経営計画や資金計画、キャッシュフローを確認して検討するようにしてください。
圧縮記帳の適用となるケースと限度額
圧縮記帳を適用するかどうかは自由ですが、適用するためには要件を満たさなければいけません。
条件は下記のとおりです。
1.圧縮記帳を行う場合には、確定申告で直接減額方式や積立金方式によって会計処理をする
2.確定申告書には、圧縮額などの損金算入に関する明細書(申告書別表13)を必ず添付する
上記の要件に加え、圧縮記帳は対象となるものが決められています。対象は以下に紹介するため、確認してください。
国庫補助金
国庫補助金は事業計画を作成して申請して受け取るお金で、名前は似ているものの、助成金や給付金とは異なります。
国や地方自治体から受け取ったお金でも、それがすべて該当するわけではありません。
圧縮限度額は、固定資産の取得などに充てた国庫補助金の額です。
代表的な補助金としては、「IT導入補助金」・「既存建築物省エネ化推進事業」・「小規模事業者持続化補助金」・「ものづくり補助金」などがあります。
公式サイトで圧縮記帳の対象になるかどうかを確認できる補助金もあるので、チェックしてみてください。
工事負担金
工事負担金とは、電力会社やガス会社といった公益事業会社が設備や施設の資金として受け取った資金をいいます。
圧縮限度額は、固定資産を取得した価額から提供を受けた金銭の価額を控除した金額です。
保険差益
保険差益は保険金を受け取って利益が出た場合の収益を指します。
圧縮記帳の対象になる保険金は、固定資産が滅失・損壊した場合に受け取る保険金だけです。
さらに、保険金を受け取る理由は、発生した日から3年以内に支払いが確定したものに限定されています。
この保険金は固定資産に対して支払われた保険金のみが対象で、棚卸資産や営業補償といった収益を補填する目的の保険金は対象になりません。
圧縮限度額は、保険差益金の額=(保険金-滅失経費)-被害部分の固定資産帳簿価額で求められます。
交換差益
固定資産を交換によって取得した場合には、その交換差益が圧縮記帳の対象となります。
交換による差額交付がなかった場合の圧縮限度は、取得資産の価額-(譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡経費の額)で計算します。
非出資組合の賦課金
非出資組合とは、出資を有しない協同組合などのことです。
非出資組合の賦課金とは、その組合員または会員に対して、固定資産の取得または改良に充てるための費用を賦課して納付された金銭で、その固定資産を取得した場合をさします。
非出資組合の賦課金は、工事負担金の圧縮限度額に準じます。
特定資産の買換
特定資産の買換は、一定の譲渡資産を譲渡してその年度に一定の買換資産を取得した場合などに適用されます。
圧縮記帳限度額は、圧縮基礎取得価額×差益割合×80%で計算されます。
圧縮基礎取得額は、買換資産の取得価額と譲渡資産における譲渡対価の額のいずれか少ない額です。
圧縮記帳の方法は2種類
圧縮記帳の方法は、直接減額方式と積立金方式の2種類に分けられます。
それぞれの特徴を以下に紹介します。
直接減額方式
直接減額方式は、固定資産の取得原価を直接減額する方法です。
特別損失として、固定資産圧縮損を使い、固定資産の簿価を受けた補助金分を差し引きます。その結果、資産と固定資産圧縮損が相殺されるので損益は発生しません。
固定資産の簿価を直接減額する直接減額法と、固定資産圧縮額を使う間接減額法があります。
直接減額では貸方に資産を計上して直接減額し、間接減額法では貸方に固定資産圧縮損を計上することで間接的に減額します。
積立金方式
積立金方式では、固定資産の取得原価を減額しません。
圧縮限度額の範囲内で、圧縮積立金として積み立てます。
この圧縮積立金は、固定資産取得時ではなく決算時に積み立てるので処理を忘れないように注意してください。
積立金方式では、圧縮損を計上することはないので、会計上の利益は増加します。
しかし、税務上は圧縮積立金が損金算入されるため課税はされません。
つまり、積立金方式では会計上の収益と税務上の益金が一時的に違うことになります。
この一時差異は税効果会計の対象です。
税効果会計は、会計上の収益・費用と税務上の益金・損金の額に相違がある時に、税金を期間配分して、税引前当期純利益と法人税等の税金費用を合理的に対応させる処理です。
繰延税金資産(繰延税金負債)を計上し、翌期以降はスケジューリングして償却していきます。
圧縮記帳の会計処理
圧縮記帳は、直接減額方式と積立金方式のどちらを採用するかによって会計処理が異なります。
ここからは、具体的にどのようにして圧縮記帳で処理するのかを、それぞれのケースで紹介します。
直接減額方式での圧縮記帳
例として、国庫補助金を受けた場合の圧縮記帳を考えてみましょう。
まずは、直接減額方式での仕訳を紹介します。
補助金額500万円、機械装置の取得額2,000万円の場合を考えてみますが、減価償却は定額法を採用し、残高価値ゼロ、耐用年数5年で計算します。
補助金を受けて固定資産を取得し圧縮記帳をした場合の仕訳は以下の通りです。
【国庫補助金の交付】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 500万円 | 国庫補助金収入 | 500万円 |
まず、入金された国庫補助金を国庫補助金収入として処理します。
【機械装置の取得】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
機械装置 | 2,000万円 | 現金預金 | 2,000万円 |
ここでは、機械装置を取得した場合を考えます。
取得時点での処理は、通常の現金で固定資産を取得した場合と変わりません。
【圧縮損の計上】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
固定資産圧縮損 | 500万円 | 機械装置 | 500万円 |
国庫補助金の圧縮記帳として、圧縮限度額まで損金として処理します。
【減価償却計算】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 300万円 | 減価償却累計額 | 300万円 |
減価償却費計算は、機械装置2,000万円−500万円÷5年=300万円と計算しました。
機械装置は直接減額方式を採用しているため、帳簿価額が1,500万円となっています。
翌期以降もこの帳簿価額をもとにして同じように減価償却を続けます。
この年に計上される損金は減価償却費300万円です。
積立金方式での圧縮記帳
直接減額方式と同様に、積立金方式の圧縮記帳を以下に紹介しましょう。
補助金額500万円、機械装置の取得額2,000万円の場合を考えてみます。
減価償却は定額法を採用し、残存価額ゼロ、耐用年数5年で計算します。
【国庫補助金の交付】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 500万円 | 国庫補助金収入 | 500万円 |
【機械装置の取得】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
機械装置 | 2,000万円 | 現金預金 | 2,000万円 |
積立金方式を採用した場合でも、国庫補助金の交付と機械装置の取得については同じ処理です。
【圧縮積立金の積立】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 500万円 | 圧縮積立金 | 500万円 |
積立金方式では、国庫補助金収入を相殺するために利益を減らす処理を行います。
貸方には圧縮積立金を計上して、借方に繰越利益剰余金を計上してください。
圧縮積立金は、貸借対照表の純資産の部、任意積立金として計上されます。
【減価償却計算】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 400万円 | 減価償却累計額 | 400万円 |
減価償却費は、機械装置2,000万円÷5年=400万円と計算します。
直接減額方式では、減価償却費を計算する場合に減額した帳簿価格で計算しました。
積立金方式では、取得価額をもとにして計算します。
【積立金取り崩し】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
圧縮積立金 | 100万円 | 圧縮記帳積立金取崩益 | 100万円 |
積立金方式を採用すると、機械装置の帳簿価格は減額されていません。
そのため、原価償却費は機械装置の取得価額から計算するので、2,000万円÷5年で400万円となります。
しかし、税務上の簿価は国庫補助金を差し引いた1,500万円です。
そこで、圧縮積立金の500万円を耐用年数で取り崩して、課税所得の加算調整を行います。
圧縮積立金500万円を耐用年数5年で割ると100万円になります。
減価償却費として計上したうちの100万円は、損金として認められません。
そこで、圧縮積立金から100万円を取り崩す処理を行います。
損金である原価償却費400万円から、圧縮記帳積立金取崩益100万円を差し引く計算です。
減価償却費400万円から100万円を差し引いて、損金は300万円です。
直接減額方式で計上した300万円と同じ効果となりました。
圧縮記帳をしなかった場合
【取得時】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
機械装置 | 2,000万円 | 現金預金 | 2,000万円 |
現金預金 | 500万円 | 国庫補助金収入 | 500万円 |
【減価償却費計算】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 400万円 | 減価償却累計額 | 400万円 |
圧縮記帳をしなかった場合も考えてみましょう。
圧縮記帳をしなかった場合には、減価償却費は2,000万円÷5年で400万円です。
つまり、圧縮記帳をしなかった場合は減価償却費として損金計上できる額が大きくなります。
つまり、国庫補助金収入の計上はあるものの毎期に渡って減価償却費を多く計上でき、減価償却が終わるまでに計上する損金は圧縮記帳をしてもしなくても変わりません。
圧縮記帳を適用した場合の法人税の申告
圧縮記帳を適用した場合には、申告書と一緒に別表13の圧縮額の明細書を作成して添付してください。
圧縮記帳の内容によって記載する場所が異なります。
会計処理した内容をもとに、必要箇所を記入して完成させるようになっています。
まとめ
圧縮記帳は、単年度での課税所得の増加を防ぎ、納税の負担を平準化できる制度です。
圧縮記帳はその年の課税所得が減額できるメリットがあるものの、資産管理面や会計処理面では作業が増えてしまう点に注意しなければいけません。
圧縮記帳を適用する場合には、今後数年間の資金計画をもとにして検討するようにしてください。
(編集:創業手帳編集部)